会話
「茉莉は全く眠り姫だな。寝てばかりいるんじゃないか?」
眼を覚ました茉莉に、新聞を読んでいた緒方が揶揄するように声をかけた。
確かにここに来てからの茉莉は・・プレイか寝ているか・・だったような気がする・・
「夕食はどうする?僕はあまりお腹がすいてないんだが・・?」
「あ、私も・・」
茉莉の答えを緒方は予想していたらしい
「じゃあ ルームサービスで軽く済まそう」
なにか軽食をたのんでいるようだ。
「その ガウン似合うね・・」
「あ、ありがとうございます・・」
茉莉には戸惑うことばかりだった。
緒方が何の気まぐれを起こしたのか・・
「茉莉は・・」
(本音どう思っている・・?)
緒方は聞けなかった。
当たり前に考えれば答えは、すぐ出る・・
が、・・・
「ご主人様? 今日は色々気を使ってくださいまして
ありがとうございました」茉莉が小さく笑顔を見せる。
緒方は逆にうなだれた。
これが、その辺の女だったら・・今までの奴隷扱いから一転変貌の例になるが・・水に流したうえで「今回の件」について礼を言っている。
好きで来たわけでもないホテルで・・
何人の女が 人間が ここで「Thank you 」が言えるだろう?
無邪気な「Thank you 」を。
そして・・この笑顔・・笑顔が見たかったんだな・・
(私の 本心は・・)
頼んだ軽食には茉莉が以前、おいしいといった「フルーツ盛り合わせ」もある。
茉莉はさりげなく察した。
Thank you so much・・
これは茉莉のつぶやきだ。
緒方には聞こえていないだろう・・
二人の無言に近い時間・・
(緒方には はっきりと茉莉のつぶやきが聞こえていた・・
ここに来る寸前、スイスの花嫁学校に在籍していた茉莉にとって本音は 英語のほうが語りやすいのかもしれない・・
それだけに かえって「please」と「Thank you」 を自然に使いこなす茉莉に圧倒される。キリスト教の博愛精神を受け継いでレディーの「貴方を受け入れます・・」と感謝を自然にできるというのが 確かダイアナ妃が出た学校の理念だったはずだ・・)
(そんな 茉莉だからこそ 僕は・・)