プレゼント
それからの茉莉は、毎朝笑顔で、その食堂に出かけて行った。
朝は少し早いが苦ではない。
緒方の買ってくれた服の中で一番仕事にふさわしそうなものを選び、楽しそうに出かけていく。
時給も800円と安いが賄いつきだし、茉莉に不満はなかった
正直、1日目はくたくただったが、茉莉は仕事覚えも早いし、何より茉莉の魅力「人を惹きつける」をもっていたので食堂の皆からもかわいがってもらえた。
すぐ「看板娘」になり、茉莉目当てのお客が増えたとを店主が喜んでくれた。
茉莉は、素直にそういったことを緒方に夕食の席で報告していた。
緒方がとっくに「茉莉の勤務先」に探偵を入れ「浅草の害のない店」との報告を入手しているとは知らず・・
が、茉莉の快活な笑顔は嬉しい
少々、茉莉の自己防御能力のないのが、気になるが・・茉莉のような女が働く店でないにしろ・・茉莉の気晴らしになれば・・
確かにあそこなら過去がさらされることはなさそうだし・・
「ねえ 一郎さん 聞いてる?」
茉莉の声に物思いからふっと顔をあげる緒方。
「茉莉、初めて『初給料』もらったのよ!」
それでね・・つならないものだけど・・
恥ずかしそうに、小さな紙袋に差し出す
「これ 幸福のおまじないなんですって」
茉莉が差し出した紙袋の中には、虹色に光るビー玉に編み紐がつけてあった
「貴方へのプレゼント」
無邪気な茉莉は 緒方がキツイ表情をしているのに誤解して
「貴方のような方に こんな安物はどうかと思ったんだけど・・キレイでしょう?
角度によっていろんな風景が見える・・あの・・お気にさわったかしら・・?」
茉莉の態度に緒方の我慢が限界を超えた。
手首をつかまれて、二階の緒方の居間のソファにどさっと座らされ・・
ただ・・茉莉は緒方が茉莉のプレゼントを手に持ってテーブルに置くのはなんだかスローモーションのように見ていた。
緒方が膝まずいて茉莉を抱きしめる。
「茉莉 茉莉・・君は・・」
ちょっと 息をついたように緒方は言った。
「乱暴をして済まない・・ワインでも・・前の夜のように乾杯しよう」
緒方は茉莉の隣に座って、軽くワインをたしなんで・・ひたすら茉莉を見つめていた
「自分が手を出してはいけないもの」という気持ちが緒方は大きい。
が、せめてこれぐらいは・・
緒方が茉莉を抱きしめる・・
緒方の匂い・・
緒方の手・・
徐々に慣れて行って・・茉莉は緒方の背中に手をまわした
どうしてかしら・・?
私がこの強い人を守らなくてはと思うのは・・?
茉莉の・・ひっそりとした思い・・
あくる朝、ソファで抱き合ったまま眠っている二人の姿にメイドは呆れた
高級で 一般的なソファベッドを兼ねる大きさとはいえ
隣にベッドがあるのに、まあ・・
古くからのメイドはつぶやく・・
「お坊ちゃんには 今までで 一番の難題かも・・?」
・・・・